限定承認で絶対に相続したい資産を守る方法!!

限定承認で絶対に相続したい資産を守る方法!!

故人(亡くなった方)の借金が把握できない相続で『限定承認』という制度を利用したいという方は続きの文章をご覧ください。
「亡くなった父の財産、不動産や預金は把握できるけど、借金がどれくらいあるのかわからない…」

 このようなご相談を受けることがよくあります。特にご自身で会社を経営していた方が突然亡くなったような場合、会社の借金はともかく、経営者の方が個人でも借金をしていることがあります。
あるいは会社の債務の連帯保証人になっているケースもあります。相続人はこのような借金についても、引き継ぐ義務があります。
しかし、それらの債務を相続人である遺族がすべて把握できるとは限りません。もちろん会社経営者でなくとも、遺族が把握できない借金があるケースは少なくありません。
こういった債務を引き継がなければならない相続人は、いったいどうすれば良いのでしょうか?

限定承認で絶対に相続したい資産を守る方法!!

1.債務を引き継がなければならない相続人の対策とは?

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もっとも有効な方法のひとつは、相続人の間で、財産について皆が理解しておくことです。もっといえば、家族で財産状況、とくに借金を含めた債務について、しっかりと話し合いをしておくことです。しかし、これはそう簡単なことではありません。会社経営者の方は、家族で商売をしているのでない限り、家庭に仕事のことは持ち込みたくない、と考えるでしょう。
また、「お父さんは外に、これだけ借金があるぞ!」などと、進んで話したい人はいないはずです(当然です)。
借金の話ではなかったとしても、「死後の事」を積極的に話したいという人はいませんし、話し合いが必要と思っていたのに認知症になってしまい、話し合いができなくなってしまった…というケースも考えられます。 

相続人が誰になるのかを把握仕方がわからないという方は、

2.限定承認という制度とは?

「故人のマイナスの財産(借金など)を把握するのが困難」な方のために法律が用意している制度として、「限定承認」というものがあります。
これは、「相続によって得た財産の限度においてのみ、債務(及び遺贈)を弁済すれば、プラスの財産を相続できる」という制度です。
たとえば、プラスの財産を1,000万円、借金を1,500万円もつ方が亡くなった場合、その相続人が借金を1,000万円弁済すれば、500万円分の借金は相続しないでもプラスの1,000万円を相続できる、という制度です。

 限定承認で絶対に相続したい資産を守る方法!!

これを読んだ方は、「1,000万円相続できても、1,000万円弁済するんだから意味ないじゃん。プラスマイナスゼロなんだから、相続放棄と同じことじゃないか」とお考えになることでしょう。
また「それと故人の債務を把握できない場合」となんの関係があるの?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

 ところが、相続というのは、そう単純なことではありません。たとえば、先ほどの例の中の「プラスの財産1,000万円」が現金ではなく、「1,000万円分の価値の、故人と同居していた自宅」だったとしたらどうでしょう?相続放棄をしてしまうと、この自宅を相続することはできません。住む場所がなくなってしまう、ということです。「引越せばいい」とお考えなら問題はないのですが、それができない事情がある方もいるはずです。

限定承認で絶対に相続したい資産を守る方法!!
しかし限定承認なら、どうにかして1,000万円分の債務を弁済することができれば、自宅を守ることができます。つまり、「相続財産の中にどうしても引き継ぎたい財産がある」という方にとっては有効な手段だといえます。

 また、プラスの財産が1,000万円、借金800万円の方が亡くなった場合、限定承認をして800万円を弁済すれば、そのあとで莫大な借金があることが判明したとしても、残りの200万円を弁済できれば、その他の借金は相続しなくて済む、ということなのです。もちろん、そもそも借金が800万円しかなかったのであれば、1,000万円をそのまま相続できます。 

 このように見れば、 「限定承認」という制度はとても便利な制度のように思えます。実際、うまく活用すればとても有効な制度であることは間違いありません。
しかし、実務上は、この限定承認という制度はあまり行われていないのが実情です。なぜでしょうか…? 

3.困難な手続き

難しい

 限定承認があまり行われていない原因のひとつとして、、 「手続きが非常に困難である」ということがあげられます。そこで、限定承認の手続についてご説明します。

 まず限定承認は、(実質的に)本人の死亡から3カ月以内に、家庭裁判所に申述しなければなりません。しかもこの家庭裁判所への申述は、亡くなった方の財産目録を添付し、さらに(相続人が複数いる場合は)相続人全員で行わなければなりません。 

<限定承認申述のために家庭裁判所に提出するもの>

・ 必要書類

 (1)申述書(財産目録付)

 (2)被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

 (3)被相続人の住民票除票又は戸籍附票

 (4)申述人全員の戸籍謄本等

※戸籍関係の書類は相続人が誰なのかを明らかにするために必要なので、個別のケースごとに必要な書類が異なります

・費用

 (1)収入印紙(800円分)

 (2)郵便切手(各家庭裁判所ごとに金額が異なります)

 つまり、相続人全員で「限定承認をしよう」と意思を統一し、故人の財産を調査して目録を作成し(もちろんこの目録には借金等のマイナス財産についても記載します)、さらに亡くなった方の戸籍謄本等、家庭裁判所の求める書類をすべて集め、死亡から3カ月以内に、家庭裁判所への申述をしなければならないのです。

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この「3カ月」という期間は、家庭裁判所に申立てをすることにより延長してもらうことも可能ですが、延長の申し立ては3カ月以内にしなければなりません。
さらに、申立てをするまでの間に、故人の相続財産を消費してしまったりすると(単純承認といいます)、もう限定承認をすることができなくなってしまいます。

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さらに、無事に家庭裁判所に申述を行えたとしても、処理は続きます。申述をすると、家庭裁判所から相続人全員に「照会書」が届きます。
この照会書に相続人全員が回答すると、家庭裁判所は申述を受理し、「申述受理証明書」を発行します。相続人が複数の場合は、裁判所が相続人の中から「相続財産管理人」を選び、「相続財産管理人選任審判書」を発行します。これで、家庭裁判所の処理がようやく完了するのです。

 さらにさらに、 裁判所の処理が終わったからといって、相続人の処理が終わるわけではありません。限定承認は限定された範囲の中で債権者に対して弁済をしなければならないわけですから、債権者への対応という、大きな仕事がまっています。そしてこの処理には、裁判所は関与してくれません。すべて相続人が自分でやることとなります。

 限定承認で絶対に相続したい資産を守る方法!!

① 限定承認をした相続人又は相続財産管理人が、 限定承認の受理を受けてから5日以内(相続財産管理人が選任された場合は10日以内)に、全ての債権者(と受遺者)向けに官報公告を行う。
この公告の内容は、「限定承認しました。2カ月以内(それより長い期間としてもよい)に改めて請求してください」ものです。

 ※官報に公告を掲載するには、原稿を提出してから1週間~10日程かかることが多いです。法律上、官報公告をする時期が決められているので、限定承認の申述が受理される前に、官報掲載に携わる会社との調整が必要です。

 ② 認識できている債権者(と受遺者)には、官報公告とは別に、上記内容の催告をする。 (内容証明郵便等)

 ③ 2カ月の債権者の申出期間終了後、債権者(と受遺者)に対して清算(配当分配)を行う。

 ※現金がない場合、相続財産を換価して支払いをしなければなりません。たとえば相続財産のうちの不動産を換価して支払いをするのであれば、不動産の換価作業がここからスタートすることになります。
不動産の換価作業は、原則として競売にかけるのですが、実際には任意売却を行うこととなるでしょう。
また、複数の債権者がいる場合、どの債権者にどれだけ支払うか…も自分で交渉・決定することになります。

 ④ 配当分配終了後新たな債権者が現れた場合、相続財産に余りがあれば、そこから支払いをする。

 ※このことを考えて相続財産の内容、金額等を記録しておく必要があります。

  このように、家庭裁判所が限定承認を受理してくれた後も、延々と作業は続くのです。相続人に特別な知識がない場合、最初の家庭裁判所への申述も自分ではなかなか困難でしょう。
また申述受理決定後の処理、特に債権者を探しだして交渉し、その後不動産を換価処分するなど、専門家、それも複数の専門家の関与がなければ、かなり困難であることがおわかりいただけるかと思います。多くの専門家が関与するということは、費用もそれだけかかるということです。
また、「限定承認をするには●●円くらいの費用がかかる」ということも一概には言えないケースバイケースのため、やってみなければわからないということなのです。
このあたりが、「限定承認があまり利用されない」ことの原因でしょう。 

4.まだある「限定承認」の問題

問題

 その他にも、限定承認特有の問題として、「みなし譲渡課税」の問題があります。税法の細かい話は別の記事に譲りますが、プラスの財産の方が多い限定承認の場合、支払わなければならない税金が増えてしまう場合があります。
また、みなし譲渡所得の申告は亡くなった方の準確定申告の中で行うので、 申告期限が相続税の申告と違い、故人の死亡から4カ月以内に行う必要があります。
これができないと延滞税や加算税の問題が発生してしまいます。ですからここでも、税理士等の専門家の関与がなければ困難…ということになるのです。

5.限定承認を利用せずに普通の承認(単純承認)や相続放棄を選択?

 限定承認はとても手間がかかるため、実務上は「単純承認」「相続放棄」を選択することが多いです。
どちらを選択するかはケースバイケースですが、相続放棄は、3ヶ月以内に手続きをしなければならないため、考えている間に期限が過ぎてしまい、結果として「単純承認」を選択せざるをえない方が多いのが現実でしょうか。。

単純承認とは、すべての財産を相続することです。

単純承認・相続放棄については、別の記事で詳しくご説明しますので、今回は割愛させて頂きます。 

まとめ

 いままで見てきたように、限定承認という制度は「便利そうに見えるけどややこしいのであまり利用されていない」制度だと言えます。
現在の制度のままでは、なかなかこの状況はかわらないでしょう。ですが前述したように、うまく活用すれば有効な制度であることは間違いありません。
今後の法整備を待ちつつも、事前の準備等ができれば、限定承認という制度の使用を考えてもいいかもしれません。